R o t e R o s e

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっかしいなァ、…アノ人は一体、何処行ったんだ」

呼気の交じったガイの台詞がひとつの部屋の前で紡がれ広がった。
其の部屋の持ち主はそう簡単に面会だって許されない程に位の高過ぎる人で、
けれど、持ち前の人柄の良さなのか慕う民はとても多い。
部下達からだって好かれている人なのだ、が、……―――どうにもサボり癖があるのかなんなのか。
しかも、自分の部屋はキチンと整頓が出来ず大好きなブウサギの巣状態と化している。

(ブウサギを愛でるのも良いけど…掃除位、してくれないかねェ、アノ人は)

と幾ら思ったことか知れない。
本人を目の前にして告げた事があったが、何か、笑顔に飲まされた気がした。

 

「あ、此処に居たんですね、良かった。」
「……ン?俺に用かい?」
私室の前でぼんやり突っ立っていれば背後から女性の声が響く。
振り返れば、メイドの服を着た女性で、良く陛下の世話をしに着ている人だ。
不思議そうにガイが傾げていればイキナリ、ずい、と目の前に薄ら水色掛かった綺麗な
入れ物を差し向けられた。中にはタオルやら石鹸やら収められていた。

「??…え?」
「陛下がお呼びですよ。浴場までお願いしますね。」
「は?っていうか、…陛下、風呂に?て言うか、何で俺が…」
「ご指名ですから。お背中とかちゃーんと流してください、はい、どうぞ」
「……ちょ、…ちょっと…」

断る余裕も与えてもらえずニコニコ笑顔を浮かべるメイドからその器を
胸へと押し付けられれば思わず両手を添えて受け取る。
多分、この瞬間、余りの驚きで女性恐怖症なんて事すっ飛んでいた。
ぽかんとした侭、立ち去る彼女の背中を見送りガイは改めて手の中の器を見下ろした。

 

 

宮殿内に備え付けられている浴場の存在は勿論、知っていたが普段ガイは
表から此処へと足を運んでいるので主に風呂は借りている己の家で入る。
其の為、通常の大きさしか見たことは無く、宮殿内の浴場がどれ程かは知らなかった。
訪れた浴場への入り口はとてもじゃないがこの先に風呂場があるとは思えないほど立派で豪華だ。
大きな漢音扉を押し開けば、先ず脱衣場。だが、広い。とてつもなく、無駄に広い。
些か面食らいつつ持っていた器を棚に置き、タオル等を外し石鹸や体を洗う道具だけを収めたのを
改めて持ち直せば早速、浴場への扉へ。

ガラガラ、

音を鳴らし開き、目の前が湯気いっぱいになる。
「!!」
だが、ガイは急に眉間へ皺を寄せると口と鼻を片手で覆う。
ふんわり、と湯気に誘われ予想しなかった香りが濃厚に指の合わせ目から鼻腔を刺激してくる。
熱を含みその香りは強烈さを増して襲って来る。流石に是を良い香り、と表すには難しい。
「バラ、…か。これ…きつ過ぎだろ…」
酷く濃密でキツイ香り乍も覚えのある花の香りに呟きを滲ませれば鼻を覆った侭、
足を進め、扉を閉めてからゆっくり視界の悪い浴場を歩く。

「陛下、居るんですか? 居たら返事して下さい」
「…ん? ガイラルディアか?遅かったじゃねぇか、待ってたぞ。さっさと来い」

キョロキョロ見渡し滑るタイル張りの下を進んでいけば目線の奥から声が響いた。
聞き慣れた、遠慮ない言葉に目的の相手だと知れば湯気の中を突き進み、
漸く、広い浴槽へと辿り着き足を止めた。
見下ろす視線の先には、湯気に交じり綺麗なしっとり塗れた金髪と男の鍛えられた肩口と
ソコから流れていくしなやかな腕の形が見えた。
縁に両腕を持たれ置き、寄りかかっていた人物は、ひょいと頭上を仰ぎガイの顔を見つけると
ニ、と口端を持上げ笑みを滲ませた。
ガイは暢気な笑みに溜息を吐いて、腰を下ろせば片膝を着いて持っていた器を横に置く。
その仕草を見届ければ男――ピオニーは体の向きを変えて、縁に両腕を重ねガイを仰いだ。

「遅いから、来ないのかと思ってたぞ。って、どうした?」
「あ、………いえ、別に」
仰ぐ先でガイの目線と合わさらない事にピオニーは気付き怪訝そうに問いを向けるのだが、
答をはぐらかす様子に直、把握し意地悪っぽく美丈夫の口端が持ち上がった。
「何、照れてンだ?お前。…全裸を見てる訳じゃ無いだろ」
「べ、別に照れてなんか居ませんよ! それよりも、俺だって暇じゃないんですから…
…変な事で呼ばないで下さい」
そう早口で訴えるガイの頬が薄ら赤く染まっていた事をピオニーは気付けただろうか。
ピオニーは肩先を僅かばかり小刻みに揺らし、笑いを喉奥で殺してから片手を伸ばせば
傍にあるガイの素足に触れる。
瞬間、ひく、と揺れる振動が指先に伝わり擽ったいとばかりに手で払われピオニーの笑いを誘う。

「偶には俺に付き合ってくれ。…俺だって散々昨日、お前に付き合ってやっただろ?
…まぁ、俺は大歓迎だったけどな。昨日は一体如何した?中々離してくれ、」
話の途中で「陛下!」と遮るように慌てたガイの台詞が入り混じった。
「兎に角、仕事が沢山残ってるんで…背中は別の人に流してもらってください。どうせ、俺以外の相手に
今まで流してもらってたんでしょ?だったら、同じようにすればいいんですよ」

そう告げて、ガイは立ち上がろうと腰を持ち上げた。
だが、完璧に立ち上がる迄はいけなかった。 突然、手首をピオニーに掴まれたのだ。
瞠目して見下ろす先には何故か真顔で真摯に見詰てくる相手の眼差しだった。
不覚にも心臓の鼓動を早まらせてしまったが、それを悟られないようにゆっくり静かに唾を嚥下した。

「寂しいことを言うな、ガイラルディア。 嫉妬は嬉しいし可愛いが、……
…あんまりバカな事を言うと苛めるぞ?」
「え……――――っ、うわ!」

悲鳴の後、間髪置かずに水飛沫が上がった。
それに入り混じるようにピオニーの笑いが響き、ザバ、と音を立てて沈んでいたガイが水から体を出す。
深呼吸をして少々荒い呼吸を弾ませ乍、濡れ落ちた前髪を掻き揚げれば傍に居るピオニーを睨む。

「い、イキナリ何するんですか、貴方は!服が………」
「なんだ、入る為に上着を脱いでたんじゃないのか?」
「ンな訳無いでしょーがッ!あ〜…びしょ濡れだ……」
「結構、…良い眺めだと思うけどなァ?」
何をバカな事を、とガイが眉間へ皺を寄せ服から正面の相手へと視線を持上げ、其処で、瞳が丸くなる。
伸びる手の動きが見え、肩口に触れたと思えば人差し指がゆっくりと下へ辿り流れていく。
その動きに彼が言いたい事が理解でき、瞬時にガイの頬へ赤味が差した。
立ち昇る湯気があるが距離が近い為か今度の赤味が多分、確実にピオニーへと通じただろう。
其の証拠に彼の細い唇の端がゆったりと持ち上がっていた。
とくん、と一瞬だけ鼓動が波打ち思わずガイは体を後退させる。怖い訳でも怯えてる訳でもない。
唯、やばい、と感じたから。再び彼に飲み込まれてしまいそうで。そういった意味の恐怖はあるかも知れない。
ガイが引けば、ピオニーは前進する。
「何で来るんですかッ」と告げても「お前が下がるからだ」と言う台詞が返って来るだけ。
無駄に広い浴槽な為、何処までも何処までもガイは流れるように湯の中を動き、
時折、浮いている真紅のバラに触れては花弁を掻き分け、矢張り下がる。
けれどソレが何時までも続けられる訳では無く、暫くすれば背中はトン、とひんやり感を帯びた壁にぶつかった。
はっ、として壁を振り返れば其の間にピオニーの両腕が壁に付き、挟まれた。

「へ、陛下……」
「残念だったな、……余りそんな顔をするな。…、襲いたくなる」
「……っ」
肘を折り、距離を近づければペロリと唇の表面を舐め上げる。
言葉を詰まらせ擽ったいのか下唇を噛締める仕草に、ピオニーは喉を鳴らし愛しそうに
そっと、唇同士を触れ合わせた。
伝わる熱と柔らかさにガイの肩先が持ち上がり、伏せる睫が振動を起こす。
時折角度を変え、口付けを深めて来る行動にガイは思わず手を持ち上げ押し留めるように肩先に触れる。
何となく、不味いと感じた。
今此処で止めないと是以上進んでしまった場合、きっと自分も歯止めが効かないかも知れない。
そう思っての行動だったのだが、逆にそれは相手の感情を昂らせる結果も招き同時に、
唯一の抵抗の術を封じられる羽目となった。
ピオニーは肩先に触れた相手の両手を取れば壁へと押し当て、触れていた唇を再び舌先で舐めれば
合わせ目をゆったりと辿り上唇を挟むように薄く唇を開きつつ咥内へと伸ばしていく。



「ん、―――っ」
逃げを打つガイの舌を簡単に捉えてしまえばネットリと絡み合わせ、吸い付く。
時折、擽る様に舌先は裏顎や歯列を辿り上唇を甘噛する。
ぞわわと其の度に背筋から脳天へと何かが突き上げていき、頭の中が白く淀んでいく。
芯の奥から熱が湧き上がり、鼻腔を侵す濃厚なバラの香りが更に思考を狂わしてくる。
「………ぁ、ん、…」
ガイは瞼を伏せ、次第に舌先を相手の動きに合わせ轟かせ混ぜ、絡ませ、吸う。
ちゅ、と水っぽい音が波音と混ざり合い聴覚すらも壊して来る。
暫く深く深く口付けを交わしてから舌先を引けば、最後にぺろ、と唇表面を舐め上げ
ゆっくりと体の高さを変えていく。
頬を紅く色付かせ、ピオニーの行動を怪訝そうに目で追えば、
彼はその視線の先で胸元へと息を吹きかけたのだ。
「んっ、く」
思わずガイから鼻から抜けたような甘ったるい声が響いた。

水に濡れ、しっとりと薄い白いシャツが体に吸い付き線を際立たせ、肌の色が透けて見える。
ピオニーは半開きにした唇を胸元へ押し付け、口付けで反応を示していた淡い小さな果実を咥内へ含み
ちゅぅ、と小さく吸い上げれば舌の表面で絡ませ押し潰した。
「あっ、ん、…陛下、っ…」
ガイは肩口を竦めぎゅっと目を瞑ると耐え切れずに甘い声を響かせる。
甘酸っぱく疼く刺激は腰に直撃する。
小刻みに体を震わせるも、男の与える愛撫は止まらず何度も何度も赤ん坊が吸い付くように
小さな突起物に吸い付いては舌先で円を描くように弄り、最後に歯を立てた。
「はぁ、ぁ、………――――んっ」
ぶる、と震え背筋がぴん、と伸び堪らないといった様子のガイを見届けてから
有無言わさずピオニーは再び唇を塞いだ。

 


噛み付くような口付け。
激しく優しく、愛しそうな、甘い。
そして充満するバラの香りの様に情熱的でもある。

だから自分は、多分、彼に逆らえないのだと思う。
一生掛かっても無理で――――逆らう気も余り、無い気がする。
是は内緒だ。言ったら何だか、凄い事をされそうである意味恐ろしい。

 

 

彼の情熱に何時も自分は逆上せてしまって、頭の思考は狂いっぱなしなのである。

 

 

 

 


絵チャから発生した合作企画(笑)
お題:ピオガイキス
UP日:2006/04/23
イラスト(藤井凌)→小説(春嗣



春嗣'sコメント
 合作は私としては初めての試みなんですが、
 色気満載の素敵な絵に意欲満々で書かせて頂きました!
 文章の背後と間に挟まってる絵を是非、堪能してくださいッ 
 もぅ、本当、鼻血モンです!ハァハァすると良いです!!


凌'sコメント
 むしろ私が春嗣さんに書いて欲しいシチュ!を
 描きなぐっただけ絵からこんな素敵小説が生まれるなんて
 合作って素敵…!(おい)
 春嗣さん萌えピオガイ有難うございます!幸せ…!
 見て下さった方にも楽しんでいただけたら嬉しいです!






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